本記事では、ソフトテニスの練習、試合のどちらにおいても重要な、無意識について解説します。
「無意識」とはその名の通り、本人が気が付いていない心の領域を意味します。
無意識はその性質上、日常の中で働きを自覚することは難しいでしょう。
本稿では心理実験の例などを通して、無意識の働きを学んでいきます。
ソフトテニスのプレーに不可欠な「無意識」
「ゾーン」への扉が開く!?ソフトテニス上達の1つ目のポイントを徹底分析!などの記事で触れてきた通り、ソフトテニスの優れたプレーは「無意識」を上手に使うことが不可欠です。
ここでは私たちの脳と心の働きのうち、気が付いている活動を「意識」、気が付いていない活動を「無意識」と考えます。
意識と無意識の関係は、しばしば氷山に例えられます。
氷山の例は、人間の心の中で、無意識の領域が非常に大きいことを示す比喩です。
私たちが感じている意識というのは氷山の一角であって、水面下の見えない部分では巨大な無意識の働きがあることを意味します。
日常で感じられる無意識の働きとしては、心臓の鼓動や呼吸などが挙げられるでしょう。
それぞれ脳によってコントロールされていますが、普段は意識して行う訳ではありません。
無意識の活動は自動的で楽なものです。
しかも、いくつものタスク(課題)を並列的に処理することができます。
ソフトテニスで体が自動的に動き、「ボールの動き」「プレーヤーの動き」など様々な情報を同時に処理、瞬時にベストな選択を行う。
このような理想的な状態は、集中し、無意識でプレーすることによって可能になります。
これは集中が極限まで深まった「ゾーン」の体感とも符合します。
本人に自覚がないという無意識の性質上、その働きは日常生活では自覚されにくいものがあります。
そこで、脳科学や心理学で実際に行われた実験を参考にしてみましょう。
私たち人間の心や体の働きにおける、無意識が占める大きさを感じられることと思います。
参考:【ソフトテニス】反応・技術・試合展開…すべてが飛躍的に上がる秘訣とは?
無意識の働きを活かすとソフトテニスが上手くなる
脳科学・心理学の分野における実験を通して、無意識の働きを学んでみましょう。
条件を設定した実験を行うことで実感が湧きづらい心のメカニズムを感じ取ることができます。
写真の実験
男性に女性2人の写真を見せて、より好みだと思う人物を選んでもらい、それを分析した実験です。
2人の異なる女性の写真を用意し、被験者の男性に見せます。
女性の写真のうち、「自分がより好みだと思う方の女性の写真を選んでください」とお願いします。
実は写真を見せているのは手品師で、相手に分からないように写真をすり替え、選んでいない方の写真を相手に見せてこう尋ねます。
「どうしてこちらの女性を選んだのですか?」
多くの被験者は写真のすり替えに気が付かず、選んでいない写真について、自分が好みだと思う理由を述べるそうです。
この実験から分かることは何でしょうか?
「自分は好みの女性としてこの写真を選んでいる」というフレーム(心理的な枠組み)に合わせて、後付けで理由を作り出しているということです。
本人が気が付かないところで、無意識はつじつまを合わせたり、ストーリーを作り上げたりします。
図書館の実験
男子高校生に、図書館で受付の女性に対して、本を返してもらい、それを分析した実験です。
高校の男子生徒に図書館で本を返却してもらいます。
図書館の受付は女性で、返却時に「①さりげなく手を触れる」「②手を触れない」という2つの場合に分けて対応します。
本の返却後、男子生徒に女性が自分の好みかどうかを尋ねます。
受付の女性が「①さりげなく手を触れる」方のグループは、「②手を触れない」グループよりも相手を好みだと感じる割合が大きくなりました。
ところが、本人に理由を尋ねると「手が触れる」こととは別の理由を答えます。
もちろん手が触れるか否かに関わりなく、相手に好意を感じる男子生徒は一定数います。
しかし2つのパターンを照合すると、手を触れるか否かを原因として差が出ている部分が認められます。
写真の例と同じように、「自分は好みだと感じている」というフレームに対して、無意識に整合性を保つ言動を取っています。
ソフトテニスと無意識
実験の例は以上です。
自分自身の考えにも、無意識によるつじつま合わせの可能性が大いにあることが分かります。
基本的に本人は自覚していない働きなので、ショッキングな事実です。
このような無意識の働きは、コントロールができないわけではありません。
「なぜ自分はこのように感じているのだろう?」と、自分を客観的に観察することで、その働きに気づくことができます。
自分でも気が付かない自分の言動の本当の動機が、自分を見つめることで見えてくる。
相手も気が付かない相手の言動の本当の動機が、相手を見つめることで見えてくる。
浮かび上がってきた表層の言葉や行動だけに捉われず、それらを出力している内側の心の働きに意識を向けてみましょう。
そうすれば、無意識に動かされていた自分が無意識を味方につけ、操縦することができます。
ソフトテニスの「無意識プレー」
ソフトテニスのプレーも、上手く無意識に任せることができれば、そのレベルは飛躍的に上がります。
ソフトテニスのプレーに無意識を使う方法は簡単で、「ボールに集中する」ことです。
ある一点に集中すると意識の上での逐次的(一つ一つ順番に行うこと)な思考から離れ、無意識が起動します。
無意識は私たちが生きている間は常に働いていますが、その働きを積極的に活かす感覚です。
集中状態に入ることで、常に膨大な情報処理を行っている無意識が、プレーをバックアップしてくれるのです。
無意識は巨大であるがゆえに、味方につけると非常に強力です。
「勉強しようと思っても、ついつい漫画を読んでしまう…」という心の働き。
これは方向さえ正しければ「ついつい目標へと向かってしまう!」という理想的な機能になり得ます。
スポーツにおける無意識のパフォーマンスは、体が自動的に動き、複数のタスクに対して並列的な処理が可能です。
無意識は非常にクリエイティブでもあります(ソフトテニスが上手くなるために理解するべき「クリエイティブ・アボイダンス」とは?)。
上記の実験で、事実とは違うストーリーをすらすらと語っていることからも、その特徴が見て取れますよね。
ソフトテニスにコーチングを取り入れる
無意識の仕組みを活かすための有効な方法の一つは、脳科学に基づく理論である「コーチング」でしょう。
コーチングでは現状の外側の高いゴールを設定し、高いエフィカシー(自己評価)を作り出すことで、自然と目標達成へと自分を導く方法を取ります。
参考:「モンスター」が目覚める!?睡眠から分かるソフトテニス上達のコツ
終わりに
ソフトテニスは人間が行うものです。
ソフトテニスが上達するための仕組みは、自ずから人間の仕組みに繋がります。
人間の仕組みとは自分の仕組みのことです。
私たちが気が付かないところで、実は大きな働きをしている無意識について自覚する。
自分自身ですらも気が付かなかった問題に原因に気が付き、自分自身ですらも気が付かないところで目標達成に近づく。
このような可能性を無意識は秘めています。
参考:【ソフトテニス×脳科学】試合で勝つために必要な「ゴール設定」の理論とは?
参考:【ソフトテニス×脳科学】上達の鍵となる「もう一つのイメージ」とは?
まとめ
●意識と無意識は、氷山に例えられる→無意識の割合が大きい
●ソフトテニスの優れたプレーは無意識のプレー
●ソフトテニスのプレーで無意識を使うには「ボールに集中」すること
●人間は本人も気が付かないところで、つじつま合わせ、埋め合わせを行う
●無意識を上手く操縦して、自分の味方につける