本記事では、ソフトテニス界の若手で活躍中の、船水選手、上松選手、広岡選手のプレーから、上手さの秘訣を考えてみます。
ソフトテニスにおいて優れたプレーヤーは多くいますが、上記3名の選手が、特にオールラウンドなプレーに長けていると思われるからです。
それぞれの選手の成績やプレーの特徴を見た後、その秘訣を探ってみましょう。
船水選手・上松選手・広岡選手のオールラウンドなプレー
ソフトテニスは長い間ダブルスが主流というイメージが強く、前衛・後衛に分けれたプレーが基本だったように思います。
現在ではダブルスでもダブル前衛の陣形が取られたり、シングルスが広がりを見せたりしています。
本稿で取り上げたい3名のトッププレーヤー、船水颯人選手、上松選手、広岡選手は、ダブルスで成績を残しながら、シングルスでもその強さを発揮します。
船水颯人選手
2019年4月より、日本ソフトテニス界初のプロ選手として活動を開始しました。
全日本シングルス優勝、天皇杯2連覇と、現在のソフトテニス界でトップを走り続けている選手でしょう。
強烈なストロークでラリーができる後衛の選手ですが、試合中に見せるネットプレーもハイレベルです。
後衛のプレーだけで見ても上手いのに、ボレーやスマッシュができる理由は何でしょうか?
上松俊貴選手
高校生初のアジア選手権ダブルス優勝、東京インドア優勝。
日本ソフトテニス界を代表する前衛として活躍しています。
一方で強力なストローク力もあり、シングルス大会でもたびたび上位進出しています(【男子シングルス編】ソフトテニス動画まとめ!【増田選手・中本選手】)。
広岡宙選手
高校時代には、上岡選手(現同志社大学)とのペアでインターハイ個人ダブルス優勝。
現在はNTT西日本広島のメンバーとしてプレーしています。
ダブルスでのポジションは前衛の広岡選手ですが、高いストローク力の持ち主です。
シングルスの試合では力強いシュートボールを打ち、上位に進出しています。
以上の3選手は「後衛なのにネットプレーも上手い」、「前衛なのにストロークも上手い」という特徴が見られます。
ソフトテニスのトップ選手のプレーを見ると、前衛・後衛というポジションに関係なく幅広い技術を習得していることが多く見られます。
そのようなプレーを見ると、「自分のポジションだけでも難しいのに、どうしてなんでもできるのだろう?」と疑問を持つ方もいるのではないでしょうか?
次章では「トッププレーヤーはなぜ様々なプレーがハイレベルなのか?」について考えてみることにしましょう。
参考:【ソフトテニス】新発想!全てのショットが同時に上達する方法!?
なぜソフトテニスが上手い人は何でもできるのか?
先ほどまでに確認したように、ソフトテニスが上手い人は様々なプレーがハイレベルです。
もちろん、フォアハンドストロークが一番得意という選手が、バックボレーも同じレベルとはいかないでしょう。
ただし一般のプレーヤーから見れば十分に優れた技術を身に付けています。
ソフトテニスのショットを同じものとして捉えている
なぜあらゆるショットが上手いのでしょうか?
その理由は、全て同じショットとして打っているからです。
「サーブ」「ストローク」「ボレー」。
これらのショットは通常、別々のものとして捉えられるものでしょう。
ところがソフトテニスが上級者は、全て同じものとしてプレーしているのです。
冒頭でご紹介した3選手、船水選手、上松選手、広岡選手も、感覚としてはショットとしてプレーしていると思われます。
本人は「いや、自分はフォアとバックを打つときは違う打ち方をしている」とおっしゃるかもしれません。
ですが実際には、共通の感覚を使わなければ正確なショットは打てません。
ソフトテニスと抽象度
一見異なるショットを同じものとしプレーする。
このとき重要なのが「抽象度を上げる」という考え方です。
抽象度と言うと難しそうな言葉ですが、実際は簡単です。
高い視点で物事を見ることが抽象度を上げることです。
より広いグルーブで捉えることと言ってもいいかもしれません。
■抽象度の例
柴犬の「ポチ」がいるとします。
「ポチ」を1つ抽象度を上げてみると「柴犬」になります。
「柴犬」の抽象度を1つ上げると「犬」。
「犬」の抽象度を1つ上げると「哺乳類」。
「哺乳類」の抽象度を1つ上げると「動物」…
抽象度を上げると1つのグループの中により多くのものが含まれている状態になります。
「柴犬」と「チワワ」はこのままだと別物ですが、「犬」という抽象度で見ると同じです。
この抽象度の仕組みを使うと、物事を学習するのが一気に早くなります。
また犬を例に考えてみましょう。
犬を飼う時には「チワワの飼い方」「柴犬の飼い方」「ブルドッグの飼い方」と、すべての犬種について個別に学ぶ必要はありませんよね?
「犬の飼い方」という、全ての犬種を含む1つ上の抽象度で学べば、あとは細かな違いだけを調整すれば対応できます。
この働きをソフトテニスにも活かすと、全てのショットが1つの物として感じられ、格段に技術が上がります。
参考:前衛・後衛に共通するソフトテニスが上手くなることの「本質」とは?
参考:【男子前衛編】ソフトテニス動画まとめ!【上松選手・九島選手】
「抽象度」を上げればソフトテニスが上手くなる!
抽象度を上げると学習が一気に進みます。
ソフトテニス上級者が「なんでもできる」のは、「すべて同じものとしてプレーしているから」だと先に説明しました。
本稿では特に船水選手、上松選手、広岡選手を例に挙げていますが、こちらの3名も高い視点でプレーを感じ取っているはずです。
ストロークもサーブもスマッシュも、1つ抽象度を上げればすべてが同じものになります。
チワワや柴犬が「犬」という同じグループにまとめられるのと同じです。
ソフトテニスのショットの抽象度を上げる
ソフトテニスのショットを抽象度を上げると、どうなるでしょうか?
答えは「ボールを打つこと」です。
あらゆるショットはボールを打つというレベルでは同じものです。
後衛なのにボレーが上手い、前衛なのにストロークが上手いのは、全てに共通する「ボールを打つ」感覚が身に付いているからです。
ラケットでボールをコントロールする感覚が身に付いていると、後は細かな違いを修正するだけで、新しいショットが打てるようになります。
あらゆるショットに共通の感覚が働くことで、オールラウンドなプレーが可能になります
ショットの種類が増えるだけではなく、一つ一つのレベルも上がります。
全てのプレーの核となる感覚が身に付いている訳ですから、より確かな技術となります。
ボールを打つ感覚を言葉で説明すると、以下のようになります。
・ボールの動きに合った体の動きが直観的に感じられること
・ボールと体のネットワークができていること
これらは感覚としては「自分がどう動くと、ボールがどう飛ぶか」が直観的に分かっている状態です。
「ソフトテニスでなんでもできる」ようになる練習は、このような感覚を養う方法です。
練習のポイントは主に2つ。
①ソフトテニスの技術を「脳の学習」というレベルで捉える
②すべてのショットを「ボールを打つ」というレベルで捉える
ソフトテニス上級者はこれらのポイントを意識しているのではなく、経験的に感じ取って実践しているのでしょう。
これからレベルアップを目指す方は、方法論として実践すると効果が感じられます。
ポイント①ソフトテニスの技術を「脳の学習」というレベルで捉える
先ほど解説した抽象度を上げる方法で、ソフトテニスの練習を考えてみましょう。
・フォアハンドの上達
・バックハンドの上達
・サーブの上達…
これらを高い視点から見つめて、一気に解決する方法とは何でしょうか?
ソフトテニスの技術向上は「脳の学習によって上手くなる」という点では同じものとして捉えることができます。
この捉え方が全てのショットが上達するためのポイントの1つ目です。
ソフトテニスは体を動かして行うスポーツですが、勉強と同じように、その学習は「脳」が行っています。
私たちが何かを学ぶときは、意識して知識を覚えるだけではありません。
脳による無意識の学習も重要な働きです。
物事を繰り返し練習することで、脳内では自然と新しい神経のネットワークが作られていきます。
自転車は繰り返し練習することで上手くなりますし、パソコンのタイピングも何度も練習すると速くなります。
これは簡単に言えば「慣れ」のことで、脳内で自動的に学習されることです。
ソフトテニスのショットで言えば、サーブもストロークもボレーも全て、反復練習によって動作に慣れていきます。
苦手なショットは大抵の場合、得意なショットに比べて練習回数が足りません。
「どのショットも繰り返しによって脳が自動的に学習する」と捉えて練習してみましょう。
自然とプレー全体のレベルが上がっていきます。
ポイント②すべてのショットを「ボールを打つ」というレベルで捉える
ソフトテニスのショットが「ボールを打つ」というレベルでは全て同じということは、前述した通りです。
ストロークもサーブもボレーも、ラケットでボールを打ってコントロールします。
それぞれショットの打ち方を個別に分けて考えると上手くいきません。
学習とは一段上に抽象化していくことで進むものです。
「ボールを打つ」というシンプルな意識を持つことで、体の自然な働きを活かすことができます。
ポイントは「ボールをよく見ること」。
ボールをよく見て、体の自然な動きに任せてスイングを繰り返してみてください。
人間の体には自動調節の働きがあり、自然に動きが調整されています。
ラリーで打つボールは毎回変わります。
スピードやコース、回転などが同じボールはまずありません。
毎回違うボールを正確に打つためには、毎回違う打ち方をする必要があります。
スイングを微調整してボールに対応するためには、体の自動調節に任せるしかありません。
フォアハンド一つとっても、抽象化が必要とされているのです。
「バウンドの高さが30cmのフォアハンド」
「バウンドの高さが31cmのフォアハンド」
フォアハンドをバウンドの高さ毎に分けようと思えば、無限に細分化することができます。
またボールは高さだけではなく、コースやスピン、スピードなどの要素も毎回異なります。
これらをボール毎に切り分けるのではなく、高い視点から見て「どれも同じフォアハンド」として捉えます。
フォアハンドの細かな違いをカットし、シンプルに捉える。
同様に、フォアハンド、バックハンド、サーブなどの各ショットをシンプルに捉えてみる。
それが「ボールを打つ」という視点です。
ソフトテニス初心者の頃は、ただボールを繰り返し打っているだけで、段々と上手くなったはずです。
他のショットについても、反復練習によって自然に上手くなるというシンプルな意識で臨みましょう。
船水選手、上松選手、広岡選手のオールラウンドなプレーの背景にも、ショットをシンプルに捉える視点が関係していると思います。
参考:脳が最速で学習する!ソフトテニス上達の1つ目のポイント「集中」
参考:脳機能が理想のプレーを実現!ソフトテニス上達の2つ目のポイント「イメージ」
まとめ
●ソフトテニス上級者が「なんでもできる」のは抽象度を上げているから
●抽象度を上げると一気に学習が進む
●ショットの抽象度を上げると「ボールを打つこと」になる
●すべてのショットが上達するポイント
①ソフトテニスの技術を「脳の学習」というレベルで捉える
②すべてのショットを「ボールを打つ」というレベルで捉える
●ボールをよく見て打つことを繰り返せば、アフォーダンス機能でスイングが自動的に調節される