こちらは大坂なおみ選手が全豪オープン優勝後のインタビューで、決勝戦を振り返った際のコメントです。
“I just felt kind of hollow, like I was a robot, sort of. I was just executing my orders, like I just did what I’ve been practicing my whole life.”
「空っぽになって、ロボットになったような感覚でした。淡々と自分の命令に従って動いていました。これまで練習してきたことを、ただ実行した感じです。」
この言葉の中には、テニスで世界一に輝いたプレーのリアルな感覚が語られていることでしょう。
スポーツで極限まで集中力を高めた「ゾーン」と呼ばれる状態だったのではないかと想像します。
ソフトテニスで「ボールに集中する」と何が起きるのか
ソフトテニスの上達のためのポイントは「集中」「イメージ」「リラックス」の3つです。
中でも一つ目の「集中」=「ボールに集中すること」が上達の鍵となります。
なぜボールに集中することでソフトテニスが上達するのでしょうか?
主に二つの項目に分けることができます。
ポイント1.学習スピードが速くなる
人間が何かを学ぶときは、学習効率が高くなる意識の状態があります。
学習とは「脳内で新しい脳神経細胞間のネットワークが構築されること」とされています。
このネットワークを作るためには、好奇心を持ったり、リラックスして対象に集中している状態が望ましいと考えられています。
ソフトテニスはボールに集中して打つことを繰り返すことで、プレーの学習スピードが速くなります。
ある一点に集中することで雑念をキャンセルでき、クリアな意識で情報を学ぶことができます。
ポイント2.無意識でプレーができる
ボールに集中することで、ソフトテニスのプレーに無意識の働きを活かすことができます。
私たちの認知的な世界のは意識と無意識に分けられ、無意識はそのうちの気がついていない部分を指します。
無意識はその性質ゆえに自覚を持ちにくいですが、人間の活動の大部分を占めています。
例えば呼吸をしたり、心臓を動かしたりという活動は脳の働きですが、普段はそれを意識することがないため、無意識の活動ということになります。
さらに今回は無意識の働きついて掘り下げていきましょう。
無意識の働きで優れているのは以下の3点です。
①自動的(オートマチック)
②並列的(マルチタスク)
③創造的(クリエイティブ)
3つをソフトテニスのプレーとの関係で見ると次のようになります。
①自動的(オートマチック)
無意識による活動は、意識して行っているという感覚がないため、自動的なものとなります。
このことは先ほど挙げた呼吸や心臓の鼓動などの例からも分かります。
あるいは毎日の通勤や通学のことを思い浮かべてもらうと、いつも同じ時間、自然と同じルートを通っていることと思います。
それは毎日「次はこの道を曲がって…」と意識して行っていることではないはずです。無意識の自動的な処理だと言えるでしょう。
ソフトテニスのプレーを無意識の自動的な体の動きに任せれば、これほど楽なことはありません。
自動的な体の動きという点は、冒頭でご紹介したように、大坂なおみ選手が自身のプレーを「空っぽ」「ロボット」と表現していることにも繋がることでしょう。
しかも、無意識による自動的な処理は驚く程正確です。
歩いたり自転車に乗ったりするときの精密なバランスを、いとも簡単に調節している機能でもあることからも、その正確性が伺るでしょう。
無意識を活かしたテニスは、自動的かつ正確なプレーを可能にするということです。
②並列的(マルチタスク)
無意識下では多くのタスクを同時並列的に処理することができます。
2人の人が並んで歩いているときのことを考えてみましょう。
この人たちは、呼吸をしながら心臓を動かし、体のバランスを取りながら隣の人と話し、かつ進むべき道を選択するなどの複数の処理を、平然とやってのけます。
これが無意識による並列処理です。
ソフトテニスの場合、ボールを正確にコントロールしながら、相手プレーヤーの動きを予測して…と並列的な処理を同時に一瞬でしなければなりません。
これは意識の上で1つずつ考えていては間に合わず、ボールに集中することで無意識の並列処理を起動する必要があります。
体感としては「ボールに集中して直観に任せる」といった意識になるでしょう。
参考:前衛を華麗にかわす!試合での後衛ストロークのコツとは?
③創造的(クリエイティブ)
私たちの無意識はとてつもなくクリエイティブです。
ソフトテニスが上手くなるために理解するべき「クリエイティブ・アボイダンス」とは?で解説したように、無意識はしたくないことを創造性豊かに避けようとします。
本心で勉強をしたくないと思っていると、無意識がYouTubeを開かせたり、掃除を始めさせたりして勉強を回避しようとします。
上記の例は無意識の創造性がネガティブな方向へ働いた場合ですが、「ひらめき」などのポジティブな面でもその働きが確認できます。
意識の上でいくら考えても浮かばなかったアイディアが、歩いているときや、お風呂に入っているときなどに、突然湧きあがることがあります。
ソフトテニスで無意識の創造性を活用するにも「集中」が鍵となります。
ボールへの集中が深まり意識の上での思考を抑えられると無意識のクリエイティビティが目を覚まします。
ポイント3.脳がボールの情報をキャッチできる
ソフトテニスのプレーの中心となるのは「ボール」です。
ボールがプレーの基準だと言えるでしょう。
なぜならソフトテニスのプレーは大きく分けるとこちらの2つの要素になるからです。
①ボールのところに行く
②ボールを打つ
これら2つの動きに共通するのは「ボールに合った動きをする」ということです。
ボールの動きに合わせるには、ボールの動きを正確に洞察できなければなりません。
そのために有効なのが「ボールに集中する」ことなのです。
ソフトテニスの動きの基準となるボールに意識を集中させることで、脳に正確なボールの情報(速度、角度、回転etc…)が入力されます。
ボールの情報をキャッチすることで初めて、プレーヤーは正確なショットを実現できます。
参考:精密なショットのメカニズム!ソフトテニスは「パターン認識」で上手くなる!
終わりに
今回はボールに集中するというソフトテニス上達のための最重要項目について詳しく解説しました。
理論は練習の効果を上げるきっかけにはなりますが、理論だけでは上達しません。
その意味では「実践」こそが真に大切なものです。
ソフトテニスが本当に上達するためには正しい理論に基づく実践が必要です。
「ボールに集中する」ことの重要性を繰り返し述べているのも、実践し継続してもらうことで初めて上達が体感できるからです。
この記事をお読みくださった皆さんはぜひ実践に移してみてください。
始めは効果を感じにくいとは思いますが、継続するうちにプレーの変化に気が付くことでしょう。
まとめ
●ソフトテニス上達の1つ目のポイントは「ボールに集中する」こと
●ボールに集中することによる効果は以下の3つ
1.学習スピードが高まる
2.無意識の3つの働きを活かすことができる
①自動的(オートマチック)
②並列的(マルチタスク)
③創造的(クリエイティブ)
3.脳がボールの情報をキャッチできる