本記事では、知的記憶と動作記憶の違いというテーマでソフトテニス上達法を考えてみます。
「ソフトテニスは考えると上手くなる」とよく言われますが、実は脳の仕組みから考えると正しいとは言えません。
スポーツが上手くなるための正しい脳の使い方=学習方法を、2種類の記憶というテーマから考えていきましょう。
ソフトテニスは動作記憶で上手くなる
人間の記憶は大きく分けると以下の2種類があります。
【知的記憶】単語など、頭の中で覚えられる知識
【動作記憶】自転車の乗り方など、慣れによって身に付く技能
2つの記憶の違いは「知識と技能の違い」ととらえれば分かりやすいでしょう。
どちらも脳内に学習されたデータが保存されている点では同じですが、働きや仕組みが違っています。
(専門的にはそれぞれ「陳述記憶」「手続き記憶」などの名称が使われます。)
頭で考えるよりも感覚の方が上手くいくことがある
勉強やスポーツで上手くいかない場合の一つに、知的記憶の学び方を動作記憶に持ってきてしまう場合が挙げられます。
習うより慣れよとの言葉通り、知識を一つ一つ覚えるよりも感覚で行う方が上手くいくことがあるのです。
自転車の乗り方について、子どもはバランスやハンドルの角度などを一つ一つ知識として覚える必要はありません。
自転車に繰り返し乗るという練習を通してナチュラルに運転技術を身に付けていきます。
学校の勉強についても同じことが言えます。
知識をそのまま覚える知的記憶が中心なようですが、感覚(動作記憶)を使う方がいい分野もあります。
例えば国語の読解問題。
文章中に使われている単語をすべて知っていても、ある程度の長さの文章を読み解くには慣れが必要です。
これはテスト前に知識を詰め込んで対応できるものではなく、日ごろから読書をして文字に慣れるしかありません。
読解力もまた練習によって磨かれていく動的記憶だと言えるでしょう。
「知的記憶」と「動作記憶」は脳の働きが違う!
知的記憶と動的記憶は見かけ上の違いだけではなく、脳の仕組みとしても異なることが確認されています。
知識(知的記憶)は海馬や側頭葉などが中心として働き、脳内に保存されます。
自転車に乗るような技能(動作記憶)はというと、主に体の無意識的な動きをコントロールしている小脳という部位が働きます。
小脳は鳥や猫のなどの動物の脳において特に発達が見られる部位です。
動物は頭であれこれと考えるのではなく、直観によって正確な運動を行っています。
このように、知的記憶と動作記憶は物理的な脳の働きとしても違いがあります。
なぜ練習しているのにソフトテニスが上手くならないのか?
ソフトテニスが上手くなりたいと思う人ほど、頭で考えて体を動かそうとしがちですが、この方法で上手くなるのは難しいでしょう。
ソフトテニスは名前などを覚える知的記憶というよりも、自転車に乗るような動作記憶の面が大きいからです。
小さな子どもはハイハイから二足歩行ができるようになり、自転車にも乗れるようになります。
二足歩行や自転車について子どもはフォームを頭で考えたりはしません。
始めのうちは失敗を繰り返しますが、繰り返しによって自然と動作に慣れてきます。
しかし大人になるにしたがって、失敗を繰り返しながら自然に上手くなるという学習のプロセスに任せることに抵抗を覚えるようです。
ソフトテニスの場合ならば一度ミスショットを打つとその原因を考えてスイングを修正するなどします。
失敗から学んでミスを繰り返さないようにすることは重要です。
しかし動作記憶に分けられるようなスポーツや語学などの技能は、学習の始めの段階でミスを気にせず繰り返すことで上達します。
ソフトテニスのテイクバック、フォロースルーなどは細かなニュアンスの違いでしかなく、感覚によって調節されるものです。
プレー全体についての感覚が反復練習によって基礎づけられていることが大切です。
硬式テニスのプロコーチが語る上達法
硬式テニスのプロコーチ神谷勝則さんは「経過分析」と「機能分析」という2つのタイプに分けて説明されています。
神谷さんの書籍での説明を参考にすると以下のようになるでしょう。
経過分析:フォームを固めることから始まる指導
機能分析:人間の体が持っている機能を引き出すことから始まる指導
硬式テニスのトップ選手は、フォーム(型)を修正する経過分析ではなく、体の働きからパフォーマンスを考える機能分析での練習を行っているようです。
硬式テニスの理論のすべてとは言えませんが、科学的な再現性が高いものも多く見られます。
これまでのソフトテニスの練習で上達が感じにくい方は新しい視点が得られるでしょう。
・記憶には「知的記憶」と「動作記憶」に2種類がある
・技能によって適した学習のプロセスは異なる
・ソフトテニスは頭で考えるより体で考える方が上手くなる
まとめ
●記憶は「知的記憶」と「動作記憶」の2つのタイプに分けられる(専門的には「陳述記憶」と「手続き記憶」)
●感覚で身に付く技能を頭で考えて学ぼうとすると上手くいかない
●ソフトテニスは体の感覚を使う動的記憶ととらえると上達しやすい
●硬式テニス指導においてもフォームではなく体の自然な動きを伸ばそうとする流れがある