本記事では、後衛のストローク技術「中ロブ」について解説します。
通常のロブを守備のロブとすると中ロブは攻撃のロブです。
中ロブは低く速い弾道で相手前衛の上を通します。
中ロブを身に付けられれば、後衛のプレーヤーにとっては大きな武器となるでしょう。
後衛の技術「中ロブ」の理論
始めに後衛の中ロブの理論面を解説していきます。
後衛のラリーは時間的な余裕を奪うと有利になる
ソフトテニスの試合では「相手の時間的な余裕を奪うこと」が重要な要素です。
余裕を奪う方法には「球速」「コース」「テンポ」「回転(バウンド)」などがあります。
相手選手のフットワークが追い付かなかったり、余裕を持ったスイングができない場面が、自分にとっては攻撃のチャンスとなるでしょう。
後衛のパッシングショットが通れば得点に直結しますが、パッシングだけでポイントが連取できるわけではありません。
速いボールや、深いボール。あるいはコースを狙って相手を揺さぶり、攻撃のチャンスを作ります。
前衛がボレーやスマッシュを決めるためにも、相手の余裕が奪われている展開が望まれます。
相手がゆったりと構えて打てる状況では、自分の動きの逆を突かれたり、威力のあるボールで押される場合があるでしょう。
試合でのウィニングショットの裏側には相手の余裕を奪う組み立てがあるものです。
後衛の「中ロブ」はオープンコートを狙える攻撃的なショット
ダブルスでは「雁行陣」が主流で、コートの半分を後衛と前衛に分かれて担当します。
前衛は基本的にネット前に詰めているため、その上を越す「ロブ」で立体的な展開が生まれます。
雁行陣のロブはオープンコートを狙ったショットだと言えるでしょう。
オープンコートと言うと、相手プレーヤーの守備範囲外、返球ができない範囲を指します。
ロブの落下地点は後衛・前衛のどちらともがいないスペースです。
プレーヤーがいないショットがなぜ返球できるのかと言えば「ロブは滞空時間が長い」から。
前衛側のボールでも、後衛が走って対応することができます。
ここに中ロブの強みがあります。中ロブは軌道が低く、滞空時間が短いロブです。
前衛の頭を越しながら、後衛が走って追いつくための時間的な余裕も少ない。
攻撃のロブは守備のロブに比べると弾道が低く前衛にカバーされる可能性も上がりますが、使いどころを押さえれば強力な武器となります。
相手後衛側のボールでも、速さや深さがあると、相手の余裕を奪う効果はあります。
スピードが速ければインパクトの難易度は上がりますし、前衛の動きをかわすのも難しくなるでしょう。
しかし、プレーヤーの正面に打たれたショットはインパクトのタイミングさえ合えば正確な返球が可能です。
シュートボールと比較した時の中ロブの強みは、プレーヤーがいないスペースに速さのあるボールが打てるということ。
後衛のショットの中では、前衛パッシング程の決定打ではありませんが、前衛のリーチの外側で攻撃的なショットが打てるのは大きな魅力です。
中ロブは「シュート」と「ロブ」の両方を打てる体勢が前提
後衛がストロークでロブを打つ時に心がけたいのが、「シュートとロブの両方を打てる構えで打つ」ということです。
その理由はもちろん相手にコースを予測されることを防ぐためです。
シュートとロブではスイングが異なるため、スイング全体を同じにはできませんが、テークバックの時点ではどちらでも打てる状態を作りましょう。
次章の練習メニューでも詳述しますが、乱打や後衛のストローク練習から中ロブ系のボールを打つように意識してみてください。
練習中は前衛が前におらず、またポイントがカウントされないため、試合展開の意識が薄れがちです。
後衛プレーヤーが試合展開に中ロブを組み込みたい場合には、練習から中ロブを打つよう心がけることをお薦めします。
また、中ロブは高い打点で打つのが基本です。
通常のロブに比べて、ボールが描く軌道の最高点が低くなります。
インパクトの時点で高めの打点で打つ方が打ちやすいでしょう。
打点が低くなると打てない訳ではありませんが、その場合、軌道の高さのコントロールに優れた技術が求められます。
後衛は「中ロブ」が打てると「ミドル」や「クロス」が活きてくる
中ロブが上手くなるメリットは、上記のような中ロブそのものの効果だけではありません。
攻撃的な中ロブを打たれた相手は時間的余裕が削られるため、中ロブに意識が向きます。
相手プレーヤーの意識が中ロブに向くと、今度はシュートボールでの「ミドル」や「クロス」が効いてきます。
中ロブを警戒している時には、ミドルなどへの意識が薄れ、反応が遅れがちだからです。
ラリーの中で中ロブを打たれると、相手の前衛・後衛両プレーヤーにとっては、対処したいコースの一つとなるでしょう。
後衛は早く一歩目を踏み出して打点に入りたいところですし、前衛はハイボレーやスマッシュでコースを塞ぎたいと感じます。
これは通常のロブの場合でも同じですが、攻撃のロブは相手後衛にとって返球が難しい分、より強く意識されると思われます。
試合展開の中で中ロブが上手く通ったら、ミドルに打ち込んだり、クロスに角度をつけたコースを狙ってみましょう。
試合相手や状況にもよりますが、選択肢があればそれだけ相手にも迷いが出て、中ロブ以外のショットの効果が増すはずです。
あるいは逆に「シュートボールをメインに試合展開を行い、相手がシュートを意識している時に中ロブ」というパターンも有効です。
ソフトテニスのコートは、ネットからベースラインまでが11.89m、サイドラインの端から端までが10.97mです。
短距離走のような「速さ」が関係がないとは言いませんが、10m程度の長さであれば、求められるのは「早さ」。
「ポジション」と「タイミング」という2つの要素がボールに追いつくためには求められます。
相手プレーヤーに対して、僅かな反応の遅れを生み出すことができれば、時間的な余裕はそれだけ無くなっていくでしょう。
・中ロブはオープンコートを狙える攻撃的なショット
・ソフトテニスの試合では相手の時間的な余裕を奪うことが重要
・中ロブは「シュート」と「ロブ」の両方が打てる体勢で打つ
・後衛は中ロブが打てると「ミドル」や「クロス」が活きてくる
参考:【ソフトテニス】「ロブ」の戦術と意識!三次元を制するストローク
後衛の「中ロブ」練習メニュー
中ロブが打てることで様々なメリットが期待できることが分かりました。
使いこなすことができれば非常に有効な中ロブですが、高い技術が求められるショットでもあります。
練習で正確に打ち分ける技術を身に付けておきましょう。
ソフトテニスのショットの基本の流れは以下のようになります。
「イメージトレーニングで準備を行う」→「ボールに集中してショットを繰り返し打つ」
プレーのイメージがリアルに作られていれば、脳はイメージの方向へと無意識に進みます。
また、ボールだけに集中することでプレー以外の雑念を減らし、脳の学習効率を高めます。
中ロブの練習も基本的な流れは同じです。
■中ロブ練習法
①中ロブのイメージトレーニングを行う
②ボールだけに集中して繰り返し中ロブを打つ練習を行う
これらの2つを組み合わせて練習することで、後衛のストローク技術は効率よく磨かれていきます。
練習①中ロブのイメージトレーニングを行う
スポーツの動きを効率的に身に付けるためには、イメージトレーニングが欠かせません。
ソフトテニスは上級者のプレーを見るだけでも上手くなります。
同様に、頭の中で自分の理想のプレーをイメージすることも効果があります。
人間の脳にとって現実とは「最も臨場感の高い情報」のこと。
体を通して物理的に体感していることでも脳内では信号として受信されています。
人間は映画を見て感動し、涙を流すことがあります。
また「思い出し笑い」のように、頭の中で思い描いた世界も現実の体に影響を与えることもあります。
物理的に体験していないことでも現実に影響があるのは、このような日常の例からも確認できることです。
中ロブが上手くなるためにも、中ロブのイメージトレーニングを行いましょう。
中ロブのボールの軌道を逆算するイメージトレーニング
中ロブを打つ前に準備として、ボールの軌道を逆算でイメージします。
ボールの落下地点から、ネット上のどこを通るか、その弾道を逆向きにイメージします。
通常のロブよりも低い軌道でのイメージになるでしょう。
乱打や後衛練習の前に行うといいでしょう。
実際にボールを打つ時にはボールに集中します。
そうすると脳は自然とイメージされたボールの軌道を現実に再現します。
中ロブが上手い後衛選手の動きを見るイメージトレーニング
中ロブのスイングのイメージは、後衛のトップ選手の動きを見ることがお薦めです。
優れた選手の動きを見るだけでソフトテニスが上手くなるのは、前述の通り。
他人の動きを見ている時、脳の一部分は自分がその動作を行っているように活性化することが確認されています。
自分の経験だけで上手くなるよりも、他の選手の動きから学ぶ方が上達は遥かに速くなるでしょう。
基本は「中ロブが上手い選手の動きを繰り返し見る(映像でもOK)」こと。
直接見ることができればベストですが、トップ選手の動きを生で見る機会はそうないでしょう。
その点、映像なら繰り返し視聴ができます。
上級者の動きを見て中ロブのイメージが掴めたら、自分が理想的なショットを打っているところをイメージしてみましょう。
足を踏み込んだ時の感触やインパクトの音など、五感を使ってリアルに思い浮かべます。
先に選手の動きを見ておけば、自分のプレーのイメージもより鮮明にすることができます。
■杉脇選手の中ロブ
練習法②ボールに集中して中ロブを打つ
現実にボールを打つ時には、ボールだけに集中して打ちます。
乱打や後衛練習などで、中ロブを打ってみましょう。
ボールに集中することの効果
人間はある対象に意識を注いで集中している時に、学習効率が上がります。
ソフトテニスはボールという一点に意識を集中させることで、飛躍的なレベルアップが期待できます。
脳が後衛のストローク技術を学習するためには、「ストロークの情報」を脳がキャッチしなければなりません。
ストロークの情報とはフォームなどの知識ではなく「体験」です。
体の五感を通じた現実の体験も、脳にとっては情報としてキャッチされます。
実際に中ロブを打っている時の体の動きの感覚、ボールの軌道というデータ。
ボールをよく見て練習を繰り返すことで、五感を通じてプレーの情報が脳へと伝わります。
スイングやボールの軌道を意識して修正しようとせずに、ボールに集中して、脳の自動的な学習に任せましょう。
フォームや戦術を考えているときは「プレー以外のこと」に意識が向いている状態です。
目の前のプレー以外の思考はプレー中においては雑念。上達に必要なデータ収集を妨げるノイズになりかねません。
中ロブの感覚を掴む
中ロブは、通常のロブとシュートボールの、中間のような軌道です。
イメージとしては、「山なりのシュートボール」のような感覚の方が分かりやすいかもしれません。
乱打や後衛練習などのメニューの中で、中ロブを打つように心がけましょう。
球種の指定がない限りシュートボールが多用されがちですが練習メニューに自分なりのテーマを設定するといいでしょう。
例えば同じ後衛練習であっても各プレーヤーのテーマ設定次第で内容は変わります。
■同じストローク練習でもテーマで変わる
「チャンスボールで不意をついて中ロブを打つ練習」
「バックハンドの球数を増やして強化する練習」
これらのように、ルーティーン化された練習に工夫を加えてみると効果的です。
中ロブは通常のロブに比べて軌道が低い分、前衛に捕まらないよう高い精度が求められます。
ゲーム形式などの実践練習も含めて、中ロブの「技術」と「戦術(中ロブの使い所の判断)」の両面を身に着けていきます。
ストロークに限らず、初めて練習するショットは始めは上手くいきませんが、ミスをあまり気にしない方が良いでしょう。
物事に熟達するためにはトライ&エラーが不可欠で、失敗を重ねた先に成長があります。
始めから上手く打とうとしてスイングを意識的に修正しようとすると、脳の自然な学習が妨げられます。
「繰り返すうちに、自然に打てるようになる」という気持ちで、継続して練習を行いましょう。
脳が中ロブを学習する仕組み
脳は繰り返しによって自然に学習する仕組みが備わっています。
本サイト内では自転車の例をよく挙げていますが、それは脳の学習のプロセスが日常の例で体感的に理解しやすいからです。
自転車は反復練習によって慣れで乗ることができます。
繰り返しによって脳が自然と神経のネットワークを組み上げ、感覚が養われます。
中ロブの感覚も自転車と同じように繰り返しによって自然と養われます。
体は自然とボールに対して最適な動きを選択します。
プレーヤーが意識して行うことは「ボールの軌道やイメージの修正」、そして「ボールへの集中」です。
現実にボールを打つ時には、体の自然な動きに任せてスイングしてみてください。
・中ロブのボールの軌道を逆算でイメージする
・中ロブが上手い後衛選手の動きを見てスイングのイメージを掴む
・ボールをよく見て練習することを繰り返す
・乱打や後衛練習でも中ロブの練習を行う
参考:【ソフトテニス】「ロブ」の戦術と意識!三次元を制するストローク
参考:ソフトテニス史上最強!?超一流前衛&後衛の動画でイメージトレーニング!
まとめ
●ソフトテニスのゲームは相手の(時間的な)余裕を奪うことがポイント
●ロブは「守備のロブ」と「攻撃のロブ」の2つに分けられる
●中ロブはオープンコートに打てる攻撃的なショット
●後衛が中ロブを打つ時には「シュートとロブの両方が打てる構え」にする
●後衛が中ロブを使いこなせると、ミドルやクロスへのシュートボールが活きてくる
●中ロブの練習メニューは以下の2つ
①イメージトレーニングを行う
→ボールの軌道を逆算でイメージする
→中ロブが上手い後衛選手の動きを繰り返し見る
②ボールに集中して中ロブの練習を繰り返し行う