本記事では、英語学習(言語学習)を通じて、ソフトテニスの「フォーム」や「効率の良い練習方法」を考えてみたいと思います。
「ソフトテニス」と「言葉」は意外にも関係が深く、これまでにもいくつかの記事で触れてきているテーマです。
この記事で改めて言葉からソフトテニスの上達法を取り上げるのは、脳科学者の茂木健一郎さんのトークがきっかけになっています。
脳のスペシャリストである茂木さんの動画と合わせて理解して頂くことで、ソフトテニスの上達法のエッセンスが掴めるのではないかと期待しています。
ソフトテニスのフォームを英語学習から考える
ソフトテニスの上達法について、先に結論を記しておきましょう。
ソフトテニス上達のためにフォームを学ぶ必要はありません。
フォームを学ばないとはめちゃくちゃな打ち方をすることとは違います。
むしろ効率の良い自然な体の使い方という「本当の意味でのフォーム」を身に付けることです。
「英文法はガン無視せよ」?
脳科学者の茂木健一郎さんが、英語学習について以下のような動画をYouTube上にアップしています。
5分程度の映像で参考になるので、ぜひ一度ご覧ください。
内容を簡単にまとめると以下のようになるでしょう。
「英語の文法を無視せよということの意味は、ブロークンイングリッシュのことではない。
英語の最上級話者は大量の英語に触れることで文法をパターン=感覚として身に付けている」。
英文法は、もともと在る「英語」という言葉を後付けで説明したものだと言えます。
皆さんが日々使っているであろう日本語も、繰り返し日本語に触れることで話せるようになっているはずです。
日本語の文法規則を学ぶことによって話せるようになる訳ではありません。
茂木さんのトークの中で挙げられていたキーワードをピックアップしてみます。
■英語学習キーワード
「文法ガン無視」
「ブロークン・イングリッシュ」
「パターン認識」
「英語の最上級話者」
「真水の英語」
英文法を無視するというのは「崩れた英語」を話すということではなく、むしろ英語の最上級話者になるため方法。
「真水の英語」とは、文法や日本語訳などではなく「英語の文章や音声そのもの」にアクセスする重要性を意味しているのだと思われます。
文法を無視して、感覚として英語を学ぶべきだという主張が読み取れます。
以上のキーワードは後述するソフトテニスの上達理論でも参考にしているものです。
日本で従来行われてきた英語学習は文法を重視したものが基本だったと言えるでしょう。
しかし、母国語である日本語を考えて見れば分かる通り、私たちが言葉を操れるのは文法を覚えたからではありません。
日本語が話せるのは過去に大量の日本語の経験を積んだ結果、感覚が身に付いているからです。
文法規則を長年学んでも、英語が流暢に話せるということはありません。
それでは以下のような場合はどうでしょうか?
■英語学習法の例
・英文を繰り返し音読する
・海外で英語だけの生活をする
これらの方法で学んだ場合には見違えるほど英語のレベルがアップすることがあります。
英語に繰り替えし接することで脳が自動的に言葉のパターンを学習するからです。
言葉の順番などのルールは、脳が感覚としてパターン化することによって身に付くものです。
ソフトテニスでは「フォームは無視」でOK!
英語を学ぶときの文法はソフトテニスのフォームによく似ています。
英語の正しい語順が文法だとするならソフトテニスの正しい形がフォームです。
英語が上手くなるのに文法が必要ないように、ソフトテニスが上手くなるためにフォームは必要ありません。
フォームと文法はどちらも上級者が身に付けているもので、「形」に焦点を当てている点で共通しています。
文法が感覚によって学ばれているのと同様に、ソフトテニスのフォームも感覚によって学ばれているものです。
「この打ち方でボールを打つのはアリか?ナシか?」
これが直観的に感じられる状態がソフトテニスが上手いということです。
体の動きを判断するための基準は、フォームという理論ではなく感覚。
ソフトテニスの感覚は、反復練習によって脳がプレーをパターン認識することで磨かれていきます。
先ほどの「英語の最上級話者になるためには英文法はいらない」という主張に倣うと、こうです。
「ソフトテニスの最上級プレーヤーになるためにフォームはいらない」。
ソフトテニスが上手い人のフォームが綺麗なのは脳のパターン認識の結果です。
上級者のフォームを学ぶことは英語の文法を学ぶことに似て本質的な力を伸ばすことには繋がりません。
以下の例文を読んでみてください。
例文:「自転車に私で図書館は行く。」
日本語を母国語とする人ならば、上の文章は読んだ瞬間に「変だ」と感じるはずです。
文章を自然に並び替えるとすれば「私は自転車で図書館に行く」となるでしょう。
これは感覚で何となく分かることです。
ある表現がアリかナシかが判定できるのは、日本語の文法を学んだからではありません。
誤りについての文法的な説明も一つの知識ではありますが、読んだ瞬間にそれが感覚されるのが言葉の技能です。
ソフトテニスのフォームも、上級者が何となく感覚でしているプレーの表面に現れているものです。
問われれば言葉で説明できるかもしれませんが、そのプレーが実際にできるのは感覚が身に付いているからです。
フォームという説明を頭で理解することでは上達には繋がりません。
これが「分かる」と「できる」の間にある大きな違いです。
文法を無視した英語学習は「ブロークン・イングリッシュ」ではない。
フォームを無視したソフトテニスも「ブロークン・テニス」ではありません。
ブロークン・テニスは造語ですが、ここでは「形が崩れた精度の低いソフトテニスのプレー」の意味で使います。
ソフトテニスでナイスショットを打つためには、リラックスして体全体が連動した動きが必要です。
繰り返し練習することで脳が効率の良いスイングを学習した結果、外から見ると綺麗なフォームが身に付いています。
ここで、茂木健一郎さんが挙げられていた「真水の英語」という英語学習のキーワードが関係してきます。
ソフトテニスも「真水のプレー」を繰り返し体験することで上手くなります。
「フォーム」や「戦術」を頭の中で考えているとき、意識はプレーそのものから離れています。
極端な言葉を使えばフォームや戦術はプレー中においては「妄想」です。
目の前で起きている現実のプレーから離れて、頭の中の考えにリアリティを感じている状態だからです。
現実のプレーを経験して脳がパターン化するには、プレーそのものに意識を集中することです。
・ソフトテニスはフォームを学ぶことで上手くなるのではない
・フォームは言葉の文法と同じく脳がプレーをパターン化した「感覚」
・フォームを無視するとはブロークンではなく「ソフトテニスの最上級プレーヤー」になること
・上達には「真水のプレー」=「プレーそのもの」に意識を集中する
参考:【ソフトテニス】現実を超える!?「バーチャルテニス」を実装する練習メニュー!
参考:時間を味方につける!ソフトテニスが上達する「超時間術」!
ソフトテニスの最上級プレーヤーは「フリーフォーム」
「英文法を無視することは、ブロークン・イングリッシュではない。むしろ英語の最上級話者になることである。」
こちらの英語理論をヒントに、ソフトテニスのフォームを無視して、最上級プレーヤーになることをお示ししました。
本章では具体的な練習方法について解説していきます。
もちろん、実際にソフトテニスで「真水のプレー」を体験し、感覚を磨いて本物の技術を身に付ける方法です。
ソフトテニスのプレーが何となく感覚でできると言われると、信じられない方もいることでしょう。
しかし言葉のような複雑な構造を持つものを何気なく使っていることを自覚すると、感覚でのプレーの可能性が実感できるはずです。
「ノーグリップ・ノーフォーム」という考え方があります。
グリップやフォームなどの手段に捉われずに、目的であるプレーの機能面に目を向ける考え方が現れているのでしょう。
これに近い言葉として「フリーグリップ・フリーフォーム」というものもあります。
型から解放されて、自由なラケットの使い方、体の使い方で、ボールを打つ。
言葉の最上級話者はネイティブスピーカー。
文法を学ぶ必要はありません。
ソフトテニスの最上級プレーヤーはネイティブプレーヤー。
フォームは必要ありません。
ネイティブ・プレーヤーとは試合で別格の強さを誇る「ソフトテニス・ネイティブ」になる練習法!で使った造語です。
言葉の母国語話者と同じように、理論ではなく感覚としてソフトテニスの技術を習得した人のことを意味します。
ソフトテニスの理論に「フォアハンド」「バックハンド」と分けるものが多いですが、これも非効率的です。
日本語の「未来形」や「過去形」の形を個別に覚えなくても、自然と使い分けることができますよね?
未来と過去には言い方に違いはありますが語順には共通するパターンがあります。
そもそも形を覚える必要はなく大量の日本語に接することで自然と学習できるものです。
フォアハンドもバックハンドも「ボールを打つ」という点では同じです。
正しい練習で繰り返しボールを打てば、全てのショットは同じように上達します。
それぞれを分けてフォームを考えていると、もともとシンプルなものを複雑にしてしまいます。
グリップの種類やショットの名称などの知識を得るのはいいですが、あくまで技術の本質は感覚です。
練習メニュー①プレーそのものを感じる練習
ソフトテニスが本当に上手くなるためには、プレーそのものを繰り返し経験することが必要です。
先ほどから書いている「真水のプレー」を経験するということですね。
真水のプレーの経験とは、ただ練習を繰り返すだけでは不十分。
今この瞬間のプレーに100%意識を集中させ、五感を通してプレーを感じることがポイントです。
頭の中でフォームなどを考えている時、目の前のプレーから意識が離れています。
脳はプレーの情報を基にパターンを学習します。
フォームや戦術を考えるのは、プレーそのものを感じることを妨げる要因です。
音楽を聴きたいときにノイズが鳴っていると音が聞こえづらくなりますよね?
プレー中にフォームなどを考えるのも、プレーそのものの情報伝達を遮るノイズのようなもの。
五感を通して脳が純粋なプレーのデータを受け取るためには、意識をプレーに集中させることが大切です。
「プレーに集中する」と言われても、実際に集中状態に入るのは難しく感じると思います。
集中のコツはテーマを設定することです。
先ほどの音楽の例で言えば、流れてくる音に意識を向けること。
ソフトテニスで集中の対象とするのは「ボール」です。
ボールに集中することがソフトテニス上達のための最重要ポイント。
ボールへの集中を習慣化することは様々な記事で説明していることです。
それは言葉習得という面から考えても同じ結論に辿り着くものなのです。
ある言葉を学びたければ、その言葉の音声・文字に繰り返し接すること。
脳は繰り返しによって自動的に新しい脳神経ネットワークを作り上げます。
脳神経のネットワークができるということは、ある物事に慣れて、感覚として技術が身に付くということです。
スマホやパソコンでの文字入力や、自転車に乗ることも繰り返しによって自然と上達しますから、皆さんも体験済みのことかと思います。
このように自然なプロセスの上で身に付いたスイングが本当の意味でのフォームです。
ナイスショットを連発する優れた機能を優れたフォームは、外から見ると綺麗なフォームだと感じられます。
フォームを無視することで感覚が磨かれ、結果としてフォームは洗練されていく。
これがフォーム無視はブロークン・テニスではないということの意味です。
ソフトテニスは繰り返しソフトテニスを経験することで自動的に上手くなります。
反復練習で新しい神経のネットワークが作られた時が、ソフトテニスのパターンが脳内で学習されるタイミングです。
「ラケットをどう振ると、ボールがどう飛ぶのか?」
「ある試合展開で、どこに打つのがベストな選択なのか?」
これらのようなプレーに対して最適な身体活動が直観的に感じられるようになります。
これは頭で考えて導き出すものではなく、あくまで経験の上に立つ感覚です。
このようなパターン化も言葉の場合と全く同じことが起きています。
「こう聞かれたら、こう答える」といくら知識で覚えていても、実際のコミュニケーションは成り立ちません。
自分が選択する言葉は、前後の話の流れやその時の相手の気分などでも変わります。
つまり過去の膨大な言語体験によって身に付いた感覚によって発話状況に対応必要があるのです。
ソフトテニスではボールやプレーヤーが常に動き続けます。
打つボールにしてもコースやスピードが毎回変わります。
ゲームの状況に合わせて最適なスイングでボールを打つ対応力が求められます。
このボールや試合展開への「対応力」が「パターン認識」によって身に付くものです。
過去のプレーの経験に基づく判断能力によって、次のプレーの対応を直観します。
一字一句同じ言葉で会話することはまずありません。
日常会話は毎回違う言葉の並びで行われますが、スムーズにコミュニケーションができます。
全く同じボール、全く同じ試合展開を経験していなくてもスムーズにプレーができるのも同じこと。
このように、フォームを無視することによって、初めて最上級のソフトテニスプレーヤーへの道が拓かれるということになります。
練習メニュー②ネイティブのプレーを「シャドーイング」する練習
英語の学習法の一つとして「シャドーイング」があります。
英語のネイティブ・スピーカーの音声を、後からオウム返しのようにリピートしていく方法です。
発音や語順などが学べる、英語のスピーキングの練習として知られています。
英語の発音を学ぶためには、自己流で発声するだけでは足りません。
英語話者の発音のイメージを作り上げることで、自分の発音をチューニングしていきます。
ソフトテニスでもネイティブ・プレーヤーの動きをシャドーイングすることが効果的です。
自分の経験だけでプレーを行うのではなく、トップ選手の動きのイメージを脳内に写し取ります。
スポーツにおいてシャドーイングとは上級者の動きを見ること。
イメージトレーニングを行うことが、言葉のシャドーイングに当たると言えるでしょう。
ソフトテニスで真似をするべきネイティブとは「プレーをフォーム(形)によってではなく、感覚で正しく行える人」のことを指します。
人間の脳にはミラーニューロンと呼ばれる働きがあります。
この脳神経は、他人の動きを見るだけでそれを自分が行っているかのように活性化すると考えられています。
動きを覚えようとする必要はありません。
見ているうちに脳が自然と学習し、自分の動きも改善されていきます。
言葉を学ぶとき、周囲の人が話しているのを聴いて真似するだけで身に付けることができました。
言葉の語順が身に付くのはもちろん、状況に応じて意味が通じるように言葉を操ることができます。
ソフトテニスのプレーも、上級者の動きをシャドーイングすることで上達が早くなります。
ボールに対応するための動きや、状況(試合展開)に対応するための動き。
イメージの働きを使えば、感覚としてのフォームや試合展開を、より早く習得することが可能になります。
体の文法・意味論の両方を含む、身体言語とも言えるプレー全体をトレースします。
理想的なプレーのイメージを脳に焼き付けておけば、実際にプレーを経験する時にはそのイメージを再現することができるでしょう。
・ソフトテニスが上手くなるためには感覚を身に付ける練習を行う
・ボールに集中することで「真水のプレー」を五感で感じることができる
・練習するだけでなくソフトテニス上級者のプレーを見ることで動きがミラーリングできる
参考:「ソフトテニス・サヴァン」内なる天才が目覚める究極の練習理論!
参考:ソフトテニスは「考えない」方が上手くなる!?センスが覚醒する練習法!
まとめ
●ソフトテニスのフォームは言葉の文法と同じで上級者の感覚を後付けで説明したもの
●英語学習に文法はいらないのはブロークン・イングリッシュではない
→ソフトテニス上達にフォームがいらないのはブロークン・テニスではない
●英語の文章や音声に繰り返し接することで脳は英語の文法を感覚としてパターン認識する
→ボールに集中してプレーそのものを感じることで脳はソフトテニスの最適な動きを感覚としてパターン認識する
●ソフトテニスの最上級プレーヤーになるには「ノーグリップ・ノーフォーム」「フリーグリップ・フリーフォーム」
●ソフトテニスの感覚を磨くと効率的な体の動きが学習され、結果としてフォームは洗練されていく