本記事では、ソフトテニスのカットストロークの理論と練習方法を解説しています。
ソフトテニスのストロークはドライブ回転が基本です。
ご存知の通り、ボールにトップスピン(順回転)をかけるとボールが沈み、ネットを越えた後コートに入りやすくなります。
今回はその反対、バックスピン(逆回転)をかけるストローク=カットストロークを解説します。
スライスのストロークと同じショットを指しますが、強烈に回転を掛けて打つ場合もあるため、ここではカットストロークと呼びます。
カットストロークの試合でのメリット
硬式テニスやソフトテニスのシングルスの試合を見ると、スライス系のショットを打つ場面が見られます。
ソフトテニスではスライスでのストロークを「カットストローク」と呼ぶことが多いようです。
シングルス・ダブルスの場合に分けてカットストロークの特徴を捉えていきましょう。
シングルスでのカットストローク
シングルスでカットストロークを使うのは以下のような理由が考えられます。
理由①ネット前に前衛が立っていない
シングルスでは前衛がネット前にいないため、カットストロークを打ちやすい状況です。
これは「相手前衛」と「ペア前衛」の2つの面があります。
まず、カットストロークで打っても相手前衛にボレーされる心配がありません。
カットでは速い打球が打ちにくく、軌道も曲がります。
相手前衛に取られる可能性があるダブルスよりも、シングルスで打ちやすいのが分かりますね。
シングルスではもう1つの理由、ペア前衛が動きやすいボールを打つ必要がないという面もあります。
ソフトテニスのダブルスの主流は「雁行陣」。
前衛・後衛にはっきりと分かれた陣形で試合を行います。
雁行陣では後衛がラリーを続け、前衛がボレーやスマッシュで決める流れを作ります。
カットストロークを打った場面でも、ペアの前衛は動けない訳ではありません。
しかし、普段練習しているラリーとはタイミングやバウンドが変わります。
カットはスピードも速くないため、相手が時間的にも余裕を持って打つことができるでしょう。
ダブルスのラリーで多用するのは難しそうですが、ストロークがメインのシングルスでは使いやすくなります。
理由②滞空時間が長く、バウンドが低い
カットストロークで打つと、ドライブ回転のボールよりも滞空時間が長めです。
ドライブが沈むような軌道になるのに対して、カットの場合は軌道に伸びが出やすくなります。
シングルスは一人当たりのコートカバーが、ダブルスに比べて広くなります。
カットストロークでは時間を稼ぐことができ、また低バウンドであるため攻められにくくなります。
自分の体勢を整えて、次のプレーの準備がしやすくなるでしょう。
また、自分がしっかりと構えて打てない時にもボールを飛ばしやすいという利点もあります。
走りながらのスイングでボールに力を伝えるのは難しいですが、カットは比較的楽にボールが飛びます。
左右に振られたときにカットを使うのは、皆さんご自身の経験に照らしても納得できることではないでしょうか。
ダブルスでのカットストローク
使い方を見極めれば、ダブルスの試合でもカットストロークは効果的です。
「バウンドが低いこと」はダブルスにおいても大きな武器になります。
カットストロークのメリット
ソフトテニスの試合での基本は「相手の余裕を奪うこと」。
左右に揺さぶるなど、相手プレーヤーを崩して優位に立ちます。
エース級のボールで決められればそれもいいのですが、一本でポイントが取れる場面はそう多くありません。
相手が余裕を持って打てないボールを打ち、チャンスを作っていきます。
「ボールが速い」「ボールが深い」「相手を動かすコース」
このようなボールを打たれると、相手は構えて打つまでの時間が少なくなる=余裕がなくなります。
これに加えて、「バウンドが低い」というのもソフトテニスでは有効です。
これはカットサーブの威力を見ればよく分かることでしょう。
ダブルスでカットストロークを打つ場面
ダブルスでカットストロークが打ちやすい場面は「相手前衛がサーブかレシーブを打ったとき」でしょう。
前衛はサーブ・レシーブを打った後はネット前はついていません。
この場面では特にカットが使いやすくなります。
それともう一つ。カットストロークは「守り」でも使えます。
技術を磨いておけば、カウンターで優位に立つことも可能です。
■場面①相手が速いボールを打ったとき
相手がスピードのあるショットを打った時に、カットストロークが有効な場合があります。
相手のボールに威力があると、返す側はカットが掛けやすくなります。
なぜでしょうか?
■威力があるボールに対してカットが掛けやすい理由
・強烈なボールは打つ瞬間にドライブ回転が掛かっていることが多い
・自分側のコートにバウンドする時の摩擦でさらにトップスピンがかる
相手がドライブ回転を掛けると、リターンする選手にとってはバックスピンの方向の回転が掛かっていることになります。
つまり自分が速いボールを打たれた時には、ボールはバックスピン方向の強い回転が掛かっている状態です。
カットストロークは相手ショットの力を利用して、強烈なスピンでカウンターも狙えます。
■場面②自分が動かされたとき
シングルスでも説明した通り、カットストロークはボールが飛ばしやすくなります。
ロブなどで動かされた場面で、走りながらシュートボールを打つのは困難。
しかしスライスの場合は振り回された場面でもスイングがしやすいく、回転を掛けて打つことができます。
試合でのストロークの主体はドライブ系のショットだと思います。
ですがカットストロークの技術を身に付けておくことでプレーの幅が広がります。
ピンチをチャンスに変えるようなショットが打てることも少なくありません。
言葉での説明でいまいちピンとこない方は、実際にカットを打ってみるといいでしょう。
試してみてカットストロークは自分には必要がないと思えば、無理に取り入れる必要はありません。
・スライス系のショットは滞空時間が長く、自分の体勢を整えることができる
・カットストロークはバウンドが低いため攻められにくい
・左右に動かされた後でもカットなら比較的返球しやすい
カットストロークの練習メニュー
ここからはカットストロークの練習メニューです。
フォームは上級者の動きを後から説明いたものです。
カットストロークの打ち方も、感覚を磨くことで結果として身に付きます。
練習の基本的な流れは以下の通りです。
■練習メニュー①イメージトレーニングを行う
・カットストロークが上手い選手の動きを見る
・自分のカットストロークをイメージする
■練習メニュー②ボールに集中して繰り返し打つ
これらを繰り返すことで、自然と体の動きがイメージの方へと近づきます。
練習メニューのポイントを1つずつ確認してみましょう。
練習メニュー①イメージトレーニングを行う
スポーツが上手くなるためには、イメージトレーニングは欠かせません。
イメージトレーニングには主に2つの方法があります。
■カットストロークのイメージトレーニング
・カットストロークが上手い選手の動きを見る
・自分のカットストロークをイメージする
イメージトレーニングが有効だということは多くの人がご存知とは思いますが、具体的な効果を確認しておきましょう。
脳は「現実」と「仮想」を区別していません。
人が頭に思い描いた世界は、現実の体や行動に強い影響を与えます。
その時々に最も強いリアリティ=臨場感を感じている世界が、人間にとっての「現実」です。
好きな食べ物の写真を見たり、頭に思い浮かべるだけでも食欲が湧きませんか?
頭の中で想像するだけでもだ液が出るなど、現実の体がイメージに反応しています。
イメージ上のプレーに臨場感を感じることができれば現実の自分のプレーにも影響があります。
よりハイレベルなイメージを描くほど、現実のプレーのレベルが上がります。
カットストロークを身に付けるためには練習も大切ですが、まずはイメージです。
イメージトレーニング①カットストロークが上手い選手の動きを見る
イメージトレーニングの1つ目の方法は、カットストロークが上手い選手の動きを繰り返し見ること。
現実に見られるのが一番ですが、映像でも構いません。
フォームを覚えようとする必要はありません。
見ているだけでプレーヤーの動きを脳が学習していきます。
以下にカットストロークのイメージが掴める動画リンクを掲載しています。
カット以外のプレーも見応えがある試合ですので、ぜひ参考にしてみてください。
【中本圭哉選手のシングルス】
2012年全日本シングルス選手権の決勝戦、中本圭哉選手と増田健人選手の試合です。
中本選手の普段のポジションは前衛ですが、ストローク技術も非常に高いオールラウンドなプレーヤーです。
中本選手はフォアハンド・バックハンドともにカットを織り交ぜており、ストローク技術の参考になるでしょう。
【船水颯人選手のシングルス】
2016年全日本シングルス選手権の準々決勝、船水颯人選手と広岡宙選手の試合です。
船水颯人選手の強烈なシュートと巧みなバックハンドのカットストロークが見られます。
対戦相手である広岡選手のストローク力も見ものです。
イメージトレーニング②自分のカットストロークをイメージする
カットストロークが上手い選手のイメージが掴めたら、自分のプレーもイメージしましょう。
先に上級者のプレーを見ておくことで自分のイメージのリアリティが上がります。
自分の頭の中だけでイメージを作るよりも、現実のプレーを見る方が動きが鮮明に感じられるからです。
自分のプレーは、常に理想的な、最高のイメージを思い描きましょう。
脳が思い描いた方向へと体は自然と向かう習性があります。
より良いプレーのイメージを思い描くほど、現実のパフォーマンスが上がっていきます。
練習メニュー②ボールに集中して繰り返し打つ
イメージができたら、実際にボールを打って練習しましょう。
乱打やストローク練習でカットストロークを打っていきます。
まず、カットストロークの技術について説明しておきます。
カットストローク技術の「本質」
カットストロークの技術で重要なのは「感覚」です。
ソフトテニスのショットを正確に打とうと思えば、体の直観的な判断に任せるしかありません。
ソフトテニスではフォームを重視する考え方は多いですが、この方法では上達は難しいでしょう。
ソフトテニスで打つボールはコースやスピンなどが毎回違います。
理想的なショットを打つためには、毎回違うスイングで正確なインパクトが求められるということです。
これは頭で考えながらできることではありません。
ボールコントロール技術の中心となるのは、体の感覚でボールの動きに対応することです。
ボールに合った正しい打ち方を身に付けるのは、「見て学ぶ」→「練習して感覚をつかむ」というプロセスです。
頭でフォームを考えていると、自然なスイングを妨げると考えられます。
フォームを意識することはお薦めしませんが簡単に打ち方について触れておきます。
カットストロークの打ち方は、「ボールの下側をこするように回転を掛けて打つ」。
言葉でフォームを覚えることよりも、目で見てイメージを作り、繰り返しによって慣れることが大切です。
カットストローク技術の「練習法」
カットストロークを打つときのポイントはシンプル。
それは「ボールに集中して打つこと」です。
ボールに集中することが感覚を磨くための近道です。
一点に集中して余計なことを考えるのをやめると、脳が効率の良いスイングを学んでいきます。
脳はもともと繰り返しによって自動的に学ぶ性質があります。
これは自転車の練習などを考えると分かりやすいでしょう。
自転車に乗れるようになるには、頭でバランスの取り方などを考えるのではありません。
繰り返し練習することで自然と慣れて乗れるようになります。
ソフトテニスの技術も、集中力を高めて繰り返しボールを打つことで自然と身に付きます。
頭で考えて体の動きを型にはめようとすると、毎回変わるボールの動きに対応できません。
フォームは気にせずリラックスしてボールだけに集中しましょう。
始めのうちは上手く打てなくても気楽な気持ちで継続してください。
反復によって自然とボールタッチの感覚が養われ、カットストロークが打てるようになります。
集中状態での練習を繰り返すことで、理想のショットのイメージが現実のプレーとして再現されていきます。
一つだけスイングのポイントを挙げると、「グリップはソフトに握って打つ」方が良いでしょう。
「インパクトの瞬間にグリップを握る」打ち方だと、スムーズなスイングで回転をかけるのが難しいと思います。
力を抜いてラケットをスイングすることで、強烈な回転が掛かったショットが打てるようになるでしょう。
実際にカットを何度も打ってみて、自分の中で掴める感覚が最も大切です。
回転を巧みに使ったテクニックが身に付けば、ソフトテニスのプレーの幅はグッと広がります。
プレーの楽しさも増すと思いますので、気軽にチャレンジしてみてください。
・カットストロークは反復練習によって、ラケット面のタッチ感覚を磨くことが大切
・ボールタッチの感覚は、ボールに集中することで自然に身に付く
・脳は繰り返しによって自動的に学習する
・イメージトレーニングを行うと、カットストロークのスイングが仮想体験できる
参考:前衛・後衛ともにソフトテニス上達に欠かせない脳の中の「鏡」とは?
まとめ
●カットストロークは、相手のトップスピンを利用して強烈なスライスで返球できる
●シングルスで特に有効。技術を身につけておけばダブルスでも生かせるショット
●カットストローク練習メニュー
①イメージトレーニングをする
・カットストロークが上手い選手の動きを見る
・自分がカットストロークを打っているところをリアルにイメージする
②ボールに集中して繰り返し打つ
●リアルなイメージは現実のプレーに強く影響する
●リラックスしてボールだけに集中すると、脳がカットストロークを自然に学習する